モーダルシフトが必要とされている背景とは?デメリットや実施の流れとあわせて解説
物流業界は、2024年問題やさらなる少子高齢化を見据えた省人化が大きな課題となっています。モーダルシフトは、物流業界における環境負荷の低減と輸送効率の向上を目指した取り組みです。実現には詳細な計画策定や輸送手段の選定、関係者との調整が不可欠です。
本記事では、モーダルシフトの意味や必要とされている理由から実施の流れ、事例まで詳しく解説します。
モーダルシフトとは
モーダルシフトとは、トラックなど自動車による貨物輸送を、より環境負荷の少ない鉄道や船舶へと転換することを指します。主にCO2の排出による環境への影響を減らすため、多くの企業がCSR(企業の社会的責任)の一環として推進しています。
現代では、製品の生産から廃棄に至るまで、各段階での環境負荷削減が求められており、その中でも物流分野での環境配慮は特に重要です。環境負荷の低減には輸配送の共同化や輸送網の集約などの方法もありますが、モーダルシフトは他の施策に比べて大きな効果が期待されています。
モーダルシフトが必要とされている理由
モーダルシフトが必要とされている背景には、トラックドライバー不足とCO2排出量削減による地球温暖化対策があります。
トラックドライバーの不足が深刻化しており、特にドライバーへの負担が大きい長距離輸送では、効率的かつ安定した物流の維持が難しくなっています。加えて、地球温暖化対策が企業に求められており、環境負荷の少ない輸送手段への転換が急務とされている状況です。
出典:国土交通省「モーダルシフトとは」
モーダルシフトのメリット
モーダルシフトには、以下の3つのメリットがあります。
- 人材不足の解消
- 長距離の物流コストの削減
- CO2排出量の低減
それぞれ詳しく見ていきましょう。
人材不足の解消
物流業界では、2024年4月からトラックドライバーに対する時間外労働規制の強化により、労働力不足や輸送量の減少が懸念されています。
この「2024年問題」やさらなる少子高齢化に対処するため、政府はトラック輸送を鉄道や船舶に移行させる「モーダルシフト」を推進しています。今後10年で船舶の輸送量を5,000万トンから1億トン、鉄道の輸送量を1,800万トンから3,600万トンに倍増させる目標を掲げました。
少子高齢化による労働力人口の減少や宅配需要の増加で、トラックドライバー不足は深刻化していますが、モーダルシフトによって鉄道や船舶に大量輸送を任せることで、労働力不足が解消することが期待できます。
出典:国土交通省「モーダルシフト倍増に向けた海事局の取組状況について」
長距離の物流コストの削減
鉄道や船舶は、一度に大量の貨物を運ぶことができるため、トラックに比べて単位当たりの輸送コストを低く抑えられます。
トラックから鉄道や船舶への切り替えによってコスト削減効果が期待できるのは、発地・着地の場所や輸送量にもよりますが、一般的に500km以上とされています。企業は物流コストを削減しながら、環境負荷の低減にも貢献することが可能です。
CO2排出量の低減
1トンの貨物を1km運ぶ際に排出されるCO2量は、営業用トラックが208gであるのに対し、鉄道は20gで約10分の1、船舶は43gで約5分の1です(2022年度試算)。このように、トラックから鉄道や船舶での輸送にシフトすることで、CO2量の大幅な削減が期待できます。
モーダルシフトのデメリット
モーダルシフトには、下記のデメリットがあります。
- 天候の影響による遅延や停止のリスクが高い
- ラストワンマイルへの対応が必要
モーダルシフトのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
天候の影響による遅延や停止のリスクが高い
モーダルシフトの導入が進まない理由の1つに、天候による遅延や停止のリスクが挙げられます。鉄道や船舶は、大雨や雪などの自然災害によって遅延や停止に至る可能性が相対的に高いです。トラック輸送も天候に影響を受けますが、運行不能になる頻度の高さは鉄道や船舶に比べてはるかに低いです。
トラックからの積み下ろしが必要
発地・着地が駅や港に直結していない限り、発地から駅や港までのトラック輸送、駅や港での積み下ろし作業、そして駅や港から着地までのトラック輸送が必要となります。つまり、鉄道輸送や海上輸送のみで完結せず、トラックへの積み下ろし作業が発生してしまうわけです。
トラック輸送であれば、そういった手間は発生しません。長距離トラックがそのまま直接納品先まで荷物を届けることも可能です。
鉄道や船舶を利用する際には、トラック輸送を組み合わせたルート設計が必要になること、積み下ろしの作業費を要することがデメリットといえます。
モーダルシフトの課題
モーダルシフトには、下記の課題があります。
- 輸送モードによっては希望条件での利用が困難
- トレーラを満載にできる荷物の確保が難しい
それぞれ詳しく見ていきましょう。
輸送モードによっては希望条件での利用が困難
鉄道や船舶は、限られたルートやスケジュールで運用しているため、顧客が希望する輸送条件やタイミングに応じた柔軟な対応が難しい場合があります。
例えば、鉄道は駅から駅まで、船舶は港から港までの輸送が基本となるため、目的地までのルートや配送スケジュールが限定されてしまいます。そのため、緊急配送や時間指定配送などに応じることは困難です。
一方、トラック輸送は道路網が広く、運行のタイミングも柔軟に調整できるため、顧客の希望に応じた配送が可能です。
コンテナを満載にできる荷物の確保が難しい
中小企業は出荷量が限られているため、コンテナの搭載率を最大限高めることができず、結果として輸送効率が大幅に低下します。
コンテナを使った輸送は、一度に大量の貨物を運べるため、満載にできればコスト効率も非常に高くなりますが、十分な荷物が確保できない場合、空きスペースが生じてしまい、輸送コストが割高になります。これを解決するためには、複数の荷主間での協力が不可欠です。
同じ地域から出荷する複数の企業が協力し、荷物を集めてコンテナを満載にすることで輸送効率を最大化できます。
モーダルシフトの実施の流れ
モーダルシフトはどのような流れで実施していけばよいのでしょうか。順に追って解説していきます。
1.計画策定
まず物流全体を見直し、目的に応じた具体的な計画を策定することが必要です。環境負荷やコストの削減、人手不足への対応など、モーダルシフトの導入が必要な理由を明確化しましょう。その上で、モーダルシフトの実施に至るまでのロードマップの策定、担当部門・担当者の選任などを行います。
2.データの把握
モーダルシフトを進めるためには、現状の輸送データを詳細に把握することが重要です。輸送量、ルート、輸送時間、コスト、CO2排出量などを算出します。また、商品の性質や輸送条件、温度管理の必要性、梱包の状態なども確認し、モーダルシフトが実現可能かどうかを検討しましょう。
3.対象輸送ルートを抽出
現行の輸送ルートの中で、モーダルシフトに適したルートを選定します。例えば、500km以上の輸送であれば、鉄道や内航海運を利用することで、コスト削減の効果を得られる可能性が高まります。振動や温度の管理が必要な場合は、輸送条件も考慮したうえで、適切な輸送モードを検討しましょう。
4.輸送機関の選択
鉄道や船舶などの輸送手段には、それぞれメリットとデメリットがあります。例えば、鉄道や船舶は大量の貨物を一度に運べる一方で、柔軟なスケジュール調整が難しいという課題があります。輸送業者と相談し、輸送時間やコスト、ダイヤの制約を考慮したうえで最適な輸送手段を選びましょう。
5.問題点や課題の対策を立てる
モーダルシフトに伴う課題や問題点を洗い出し、対策を講じることが大切です。例えば、輸送時間が現状よりも増大する場合には、顧客との納期調整や生産工程の見直しが必要です。コストが増加する場合には、コンテナの積載率を高めるなどの工夫が考えられます。
また、振動や動揺といった輸送品質の課題に対しては、適切な梱包材や輸送用容器の選定が必要です。輸送業者や社内の関連部門と調整しながら、リスクを最小限に抑えつつ、スムーズな移行を実現するための計画を策定しましょう。
モーダルシフトの実践に使える補助金制度
令和6年度の「モーダルシフト等推進事業」は、物流業界における温室効果ガスの排出削減や、省力化による持続可能な物流システムの構築を目的とした補助金制度です。
対象は、物流に関連する荷主や物流事業者で構成される協議会です。事業は「総合効率化計画策定事業」や「モーダルシフト推進事業」など、複数の分野にわたります。例えば、物流の効率化計画を策定する際には、最大500万円までの補助が受けられ、実際に省人化や自動化機器を導入して運用する場合には、さらに高額の補助が提供されます。
モーダルシフトに関連する幹線輸送の集約や、中継輸送の推進に対しても最大1,000万円までの補助を受けることができます。
モーダルシフト等推進事業は平成23年度から実施されており、令和7年度以降も実施される可能性があります。
出典:国土交通省「令和6年度「モーダルシフト等推進事業」(補助事業)の募集開」
モーダルシフトの事例
モーダルシフトは、すでに多くの企業が実施しています。モーダルシフトの事例を4つ紹介します。
鉄道輸送への転換でドライバー運転時間を85.3%削減
西濃運輸(株)、九州西濃運輸(株)、日本貨物鉄道(株)が協力して、中部地区から九州地区への輸送においてトラック輸送から鉄道輸送へのモーダルシフトを実施した事例です。
従来は、「福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県、鹿児島県」と、「愛知県と岐阜県」の間で1日あたり22便のトラックが稼働していました。
モーダルシフトの実施により、一部のトラック輸送が鉄道輸送に切り替えられました。31フィートコンテナを使用し、福岡貨物ターミナル駅から岐阜貨物ターミナル駅、名古屋貨物ターミナル駅まで鉄道での輸送が行われています。
本事例では、年間で5834.8トンものCO2削減(74.6%削減)と、年間100,490時間のトラックドライバーの運転時間の削減(85.3%削減)を実現しました。
出典:国土交通省「モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より)」
ビールメーカー4社がRORO船へ転換
ビールメーカー4社(アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリー)が、関東から関西間の貨物輸送において、トラック輸送からRORO船(Roll-on/Roll-off船)へのモーダルシフトを実施した事例です。RORO船はトラックをそのまま積載して輸送できるため、長距離輸送での効率化が期待されます。
従来は、ビールメーカー各社の物流拠点間の輸送がすべてトラックで行われていました。
モーダルシフトの実施により、ビールメーカー4社の荷物は千葉港からRORO船によって堺泉北港まで輸送されます。その後、堺泉北港からは再びトラックで各関西の物流拠点へと配送されます。これにより、長距離をトラックで運ぶ必要がなくなり、輸送の効率が大幅に向上しました。
本事例では、CO2排出量が年間1,648.7トン削減(59.3%削減)、ドライバーの運転時間が年間3,793時間削減(77.5%の削減)となりました。
出典:国土交通省「モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より)」
異業種ラウンド輸送による鉄道モーダルシフト
この事例は、大王製紙(株)、ダイオーロジスティクス(株)、サントリーホールディングス(株)、サントリーロジスティクス(株)が協力して、関東〜関西間の飲料製品と紙製品を輸送する際に、トラック輸送から鉄道輸送へのモーダルシフトを行った事例です。
異業種の製品を同じ輸送コンテナで運ぶ「ラウンド輸送」を導入することで、環境負荷の低減と効率化を実現しました。
従来は、神奈川県にある関東地区飲料製品事業者から大阪府の関西地区飲料製品配送センター、兵庫県の関西地区紙製品事業者倉庫から神奈川県の関東地区紙製品事業者倉庫へトラック輸送が行われていました。
モーダルシフトにより、31フィートコンテナを用いた鉄道輸送に切り替わりました。飲料製品と紙製品は、兵庫県の紙製品倉庫や大阪府の飲料配送センターからJR貨物安治川口駅までトラックで輸送され、その後、鉄道輸送で東京貨物ターミナル駅まで運ばれます。東京貨物ターミナル駅に到着した貨物は、再びトラックで神奈川県の事業者倉庫へ配送されます。
この取り組みにより、CO2排出量は年間100.8トン削減(62.1%削減)、ドライバーの運転時間も年間1,771時間が省力化(73.3%削減)されました。
出典:国土交通省「モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より)」
工場機能の集中生産化に対応した鉄道モーダルシフト
この事例は、大和ハウス工業株式会社が、工場の集中生産化に伴い、トラック輸送からJRコンテナ貨物輸送へのモーダルシフトを実施した事例です。
従来は、各工場で特定製品を専業で生産する集中生産化を進めていました。しかし、工場間の輸送量が増加し、建築現場までの輸送距離が長くなり、物流費のコストが上昇していました。加えて、トラックの手配難や長距離ドライバーの労務問題が顕在化し、トラック輸送の継続が困難になっていました。
そこで実施されたのが、トラック輸送からJRコンテナ貨物輸送へのモーダルシフトです。500km以上の長距離輸送において、大ロットを運べるJRコンテナを使用することで、CO2排出量の少ない輸送方法を選択することにしました。
栃木工場(栃木県二宮市)で製造された外壁部材を宇都宮ターミナルからJRコンテナを使って輸送し、東北工場(宮城県古川市)や、札幌ターミナルを経由して札幌物流センター(北海道恵庭市)へ届ける仕組みです。
各工場で製造された製品を他の部材と合わせて住宅建設現場へ配送しています。また、秋田方面への輸送では、コンテナ駅での滞留期限を活用することで、外部倉庫を使わずに直接現場へ納品する効率的な手法を採用しています。
このモーダルシフトの実施により、リードタイムの確保が可能となり、さらに生産計画と工程管理を厳密に行うことで、JRコンテナ輸送が現場でスムーズに行われるようになりました。また、外部倉庫を使用せず、ターミナルから直接建設現場への納品が実現したことで、物流トータルコストの削減にも成功しています。
出典:大和物流株式会社「モーダルシフト事例―大和ハウス工業株式会社様」
まとめ
モーダルシフトの導入は決して簡単ではなく、実施可能な企業は限られています。長距離輸送の効率化や環境負荷の削減といったメリットが期待される一方で、課題の多さや導入の難しさがハードルとなります。しかし、これらの課題を事前に明確化し、適切な対応策を講じることで、モーダルシフトによる効果を最大限に引き出すことが可能です。
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監修者情報
小野塚 征志
経歴:
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。
ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、DX戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進、リスクマネジメントの強化などの多様なコンサルティングを展開。
経済産業省「産業構造審議会 商務流通情報分科会 流通小委員会」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員などを歴任。
近著に、『ロジスティクスがわかる』(日経文庫ビジュアル版)、『ロジスティクス4.0』(日経文庫)、『サプライウェブ』(日経BP)、『DXビジネスモデル』(インプレス)など。
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