ドローン物流・配送の現状と課題
物流業界では、宅配需要の高まりと同時に、ドライバー不足や配送困難地域の拡大といった課題が深刻化しています。こうした問題を解決する新たな手段として、ドローンを用いた物流・配送が注目されています。
日本では2022年12月に「ドローン飛行レベル4」が解禁され、多くの企業や自治体がドローン物流・配送の導入を検討し、実証実験を進めています。特に、人口が減少する地域での物流インフラの維持や、ラストワンマイル問題の解消に役立つことが期待されています。
本記事では、ドローン物流・配送の現状と課題、今後の展望について考察し、いくつかの導入事例をご紹介します。
ドローン物流・配送の現状
現在、ドローン物流・配送については、実用化に向けた法整備やガイドラインの策定が進んでいます。ドローン物流・配送の概要とともに解説します。
ドローン物流・配送とは?
ドローン物流・配送とは、小型無人機=ドローンを活用し、無人で荷物を配送する物流方式です。これは、最先端技術を活用して物流プロセス全体を一元管理する「スマートロジスティクス(スマート物流)」の一つ。特に過疎地や離島など、医薬品や生鮮品などの定期・安定的な配送手段が確保しにくい地域の物流課題を解決する手段として、重要視されています。
また、コロナ禍以降続く宅配需要の増加や2024年の法改正による時間外労働時間の上限規制も、ドライバー不足に拍車をかけていることから、これに代わるラストワンマイルの担い手としてもドローンが注目されています。
2022年12月に改正航空法が施行され、有人地帯での目視外飛行、いわゆる「レベル4飛行」の実現に向けた法整備が進められました。2023年3月には、国土交通省が「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン Ver.4.0」を発表し、国を挙げた実証実験も行われるなど、ドローン物流・配送の事業化に向けた取り組みが加速しています。
ドローン物流・配送の実用化に向けた法整備が進行中
日本では、ドローンの飛行レベルを4段階で設定、規制しています。
- レベル1:目視内で操縦飛行
- レベル2:目視内で自律飛行
- レベル3:無人地帯で目視外飛行
- レベル4:有人地帯で目視外飛行
レベル1・2は、ドローンの飛行は目視内に限られますが、レベル3では無人地帯に限定して目視外の飛行が可能、レベル4では有人地帯でもドローンの自律飛行が可能です。2022年12月の改正航空法によるレベル4の解禁で、今後、住宅地などの人がいるエリアでも、ドローンの自律飛行ができるようになります。
また、2023年12月には、レベル3とレベル4の中間に位置する「レベル3.5飛行」が新設され、レベル3飛行に必要な要件が緩和されました。従来、レベル3(無人地帯での目視外)飛行を行うには、無人地帯を確保するための補助者や看板の設置など「立入管理措置」が必須で、ドローン配送を実現するにはそのためのコストがかかっていました。新制度では、①国家資格である二等以上の操縦ライセンスの保有、②保険への加入、③機上カメラで人の有無を確認する、という3つの条件を満たすことで立入管理措置が不要となり、規制緩和によるドローン活用の促進が期待されています。
ドローン物流・配送のガイドラインを制定
改正航空法によるレベル4飛行の解禁を受け、国土交通省はドローン物流・配送の社会実装をさらに推進するために、「過疎地域等におけるドローン物流ビジネスモデル検討会」において、レベル4飛行も視野に入れた「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」を公表しました。
このガイドラインは、2021年3月に公表されたVer.1.0(法令編)から始まり、Ver.4.0ではドローン物流・配送の導入方法や配送手段に関する具体的な手続き、および国内で社会実装された事業の事例がまとめられています。
参照:「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」
ドローン物流・配送のメリット
ドローン物流・配送には様々なメリットが期待されています。主な4つのメリットについて説明します。
配達員不足の解消
ドローン物流・配送の大きなメリットは、ドライバー不足の解消が期待できる点です。少子高齢化やECの普及に伴う宅配ニーズの増加で慢性的なドライバー不足が続く中、2024年の法改正で時間外労働時間の上限が規制されたことから、ドライバー不足はさらに深刻化すると見込まれています。無人での配達を可能にするドローン物流・配送は、物流の効率化と配送業界における人手不足の緩和に大きく貢献すると期待されています。
コスト削減
ドローン物流・配送は初期投資がかかりますが、その後はドライバーの人件費やトラック輸送などにかかる燃料費、維持費などのコストを低く抑えることが可能です。配送効率が低い地域でのドローンの採用は、中・長期的に見ればコストメリットが大きくなります。
配達効率の向上
ドローン物流・配送では、上空飛行で荷物を最短距離で配達できるため、交通渋滞の影響を受けることなく、配達時間を圧倒的に短縮できるメリットがあります。レベル4の解禁により、都市部でも目視外の自律飛行が実現できれば、即時・即日での配達効率は改善されます。
さらに、トラックなどの車両では配達が難しい山間部や離島にも、上空からアクセスできます。完全自律飛行できるドローンであれば、人間の手による操作が不要ですから、従業員の負荷を気にすることなく常時稼働も可能で、この点からも配達効率の向上が期待できます。
過疎地や離島、災害時における被災地への運搬活用
道が険しく車両が通りにくい山間部などの過疎地、空輸や海運に限られる離島、災害により孤立した地域。現在、こうした場所への物資運搬はヘリコプターが担っていますが、ヘリの離着陸にはある程度広いスペースを要します。
一方、ドローン物流・配送では離着陸に広いスペースは不要で、特に災害時には利便性が高まり、迅速な救援活動が可能です。上空から最短ルートで迅速かつ安全に荷物を届けることができれば、必要な物資を今よりもはるかに容易に入手でき、安心して生活ができるようになります。
ドローン物流・配送のデメリット
さまざまなメリットが期待されるドローン物流・配送ですが、反対にデメリットについても把握しておきたいものです。主なデメリットは以下の3つが考えられます。
ドローンの衝突や破損のリスク
ドローン運用におけるデメリットの一つは、飛行中の操作ミスや風雨の影響による墜落や衝突など、事故や破損のリスクがあることです。ドローン本体や運搬中の荷物はもちろんのこと、地上にいる人や建物などにも被害が及ぶ可能性を考慮しなければなりません。現在、実証実験は過疎地や山間部、離島など比較的事故リスクの低い地域で限定的に行われていますが、人や建物が密集する場所での導入にはまだ課題があります。
安全性を確保するには、詳細な天候確認や機体の整備、操縦者の技量向上が不可欠です。また、ドローンの落下などによって第三者に損害を与えるリスクもあるため、賠償責任保険への加入も検討する必要があります。
バッテリーや重量の課題
ドローンの動力は主にバッテリーです。現在、長く飛行できるバッテリーの開発も進められていますが、バッテリー容量や積載量など、ドローンの機体そのものの性能が向上しなければ、運べる距離も物量も、極めて限定的になります。ドローン物流・配送が特に期待される過疎地や離島への配送では、飛行時間と荷物の重量が課題です。
盗難などセキュリティの問題
ドローン物流・配送で最も懸念されるのは、セキュリティ面と誤配送のトラブルです。無人によるドローン配達は、ドローン本体や荷物の盗難リスクがあり、現時点ではこれらに対する有効な対応策がありません。リスクを軽減するためには、GPS(衛星利用測位システム)の精度の向上や配送中の監視・サポート体制の整備、セキュリティ機能の強化などが不可欠です。
ドローン物流・配送で未来はどう変わるのか
ドローン物流・配送が実用化されると、現在の物流にはどのような変化が起こるのでしょうか。以下3点について解説します。
ドローン物流・配送の市場規模予想
テクノロジーや人々のライフスタイルの急激な変化により、ドローンは物流に不可欠なツールとグローバルレベルで認識されています。ある調査レポートによれば、世界のドローン物流の市場規模は、2022年で約5.4億ドル、2023年で約8.4億ドル、2031年には284億ドル規模に成長が予測されているほどです。日本国内のドローンビジネス市場は、インプレス社の調査レポートによれば、2022年度は約3086億円、2028年度には約9340億円に達すると見込まれています。現在は実証実験から社会実装の段階に移りつつあるところですが、2025年度以降、市場が本格的に立ち上がっていくと予想されています。
国内のドローンビジネス市場規模の予測
参照:インプレス「ドローンビジネス調査報告書2023」
未開拓の空間を産業に利用
ドローンが活躍できる高度150m以下の上空領域を活用することで、道路に制限されない物流が可能です。ここ数年、甚大な災害に襲われる日本列島では、インフラ整備にかかるコストも道路の改修に比べれば低く抑えられることもメリットの一つ。また、ドローンの産業利用に伴い、消耗品やメンテナンス関連事業、保険、気象情報サービスや運行管理システム関連事業、スクールなどの周辺事業の拡大も期待されています。
過疎地や離島への活用で地域が活性
ドローン物流・配送が一般化すれば、山間部や離島にも迅速かつ安全に荷物を届けることができます。物流が活発になれば、人々が安心して生活できるようになり、地域の活性化にもつながります。
ドローン物流・配送の導入例
どのような分野でドローン物流・配送が活用できるのか、国土交通省の「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」に掲載されている、実証実験や運用の事例からいくつかご紹介します。
日用品および食品等の配達事例
●山梨県北都留郡小菅村(過疎地・中山間部・平地)
新スマート物流実装を通じた、持続的物流網の再構築を目指した実証実験。日用品や食品を対象に、河川や山の上空を飛行。民家付近にもアプローチして飛行するルートを実装しています。
●長崎県五島市(離島)
住民の買物支援のための実証実験。五島市の二次離島には商店のない島や個人商店のみの島が多く、島民のほとんどは、中心市街地のある福江島に定期船や自家用船で、1~2週間に1回程度まとめ買いをしていますが、総菜・弁当類は日持ちせずまとめ買いができません。日持ちしない食品類も含め、島に居ながらにして購入が可能な状況を実現しようとしています。
ラストワンマイル支援の試行例
●東京都西多摩郡奥多摩町(過疎地・中山間部・平地)
人口減少化に向け、配送業務の省人化および効率化により、山間地域等での物流インフラを維持するための実証実験。郵便局を起点に、個人宅配送の実用化に向けた取り組みです。
医薬品の配送例
●北海道稚内市(過疎地・中山間部・平地)
配送人手の不足から物流インフラの維持が困難になっている過疎地は、医療従事者も同様に減少傾向にあり、住民にとっては数少ない医療機関等への交通アクセスも不便で、負担になっています。オンライン診療・オンライン服薬指導による完全非接触医療の実現を目指した、医薬品のドローン配送の実証実験です。
フードデリバリーサービスと連携した導入例
●新潟県新潟市中央区(地方都市)
中規模都市地域内における、高頻度×近距離でのフードデリバリーサービスの実証実験。商業観点から立地条件が悪いとされる地域に居住するカスタマーに、出前館アプリと連携したドローン配達サービスで、最短で欲しい商品が届く体験を提供しようというものです。
このほかにも、国土交通省の「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」には、さまざまなケースを想定した49件の実証事例が掲載されています。
まとめ
ドローン物流・配送にはまだ解決すべき課題があるものの、すでに実装段階に入り、周辺事業への影響も含めて期待が高まっています。ドローン物流・配送が当たり前になる時代は、そう遠くないはずです。今後は、ドローンの機能向上や、国のガイドラインの改訂、ドローン関連の情報やソリューションが一堂に集まる展示会などにも注目するとよいでしょう。
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監修者情報
小野塚 征志
経歴:
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。
ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、DX戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進、リスクマネジメントの強化などの多様なコンサルティングを展開。
経済産業省「産業構造審議会 商務流通情報分科会 流通小委員会」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員などを歴任。
近著に、『ロジスティクスがわかる』(日経文庫ビジュアル版)、『ロジスティクス4.0』(日経文庫)、『サプライウェブ』(日経BP)、『DXビジネスモデル』(インプレス)など。
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